BIOSCIENCE

遺伝子改変動物作製

ゲノム編集技術

ゲノム編集技術(ZFN, TALEN, CRISPR/Cas9等)は、受精卵にRNAをインジェクションすることで遺伝子改変動物が作製できるという共通点があります。標的とする領域でヌクレアーゼ活性を持つ酵素が働きDouble Strand Break (DSB)を起こさせます。DSBが起こると、NHEJ(non-homologous end-joining:非相同末端結合)か、HR(homologous recombination:相同組換え)の2種類のいずれかにより修復が起こります。NHEJはDSBが起こった部位を単純に結合させるというもので、DSB発生時のメインの修復機構となります。しかし、連結時に数塩基~数十塩基のinsertion(挿入) あるいは deletion(欠失)変異(indel変異)が生じることがあります。この修復エラーを利用してframe-shift変異を導入し、標的遺伝子のノックアウトが可能となります。HRによる修復では修復に際して、鋳型となる正しい配列が存在するため、NHEJと違い正確な修復が可能です。通常、HRによる修復は姉妹染色分体を鋳型として行われますが、標的とするDSB導入部位近辺の配列(相同領域)を含んだドナーDNAをRNAと一緒にインジェクションすることで、ドナーDNAを鋳型としてHRによる修復を起こすことができます。その際に、ドナーDNAにpoint mutationを入れておくことで、ゲノム中に正確にpoint mutationを導入し、モデル動物を作製することも可能です。また、HRを用いることにより、loxP配列や大きなサイズのGFP(Green Fluorescent Protein)遺伝子を導入することもできます(図1)。

この技術により、ES細胞の樹立が困難であった生物でも遺伝子改変生物作製の報告が次々となされています。また、遺伝子改変動物作製のみにとどまらず、遺伝子治療に至るまで、様々な活用法が期待されています。以下に3種類のゲノム編集技術について、それぞれの特徴を紹介します(図2)。

ZFN
FNはゲノム編集技術の第1世代です。3塩基を認識するZFモチーフとその末端にFokⅠヌクレアーゼを結合させた人工のキメラタンパク質が、標的領域でヘテロダイマーを形成して標的DNA部位でDSBを起こすことが1996年に報告されました。一つのZFユニットが3塩基を認識し、3~6ユニットの組合せで9~18塩基を認識することになります。5~6塩基対のスペーサー領域を挟む形でセンス鎖とアンチセンス鎖に設計することにより標的とする配列を認識させます(図2)。
TALEN
ZFNのDNA結合ドメインを植物病原細菌であるXanthomonas属のもつTALエフェクターに変えた第2世代のTALENの開発が2011年に報告されました。TALエフェクターがDNAに結合する際は、1つのモジュールが1つの塩基を認識します。TALENもZFNと同じくスペーサーを挟むようにセンス鎖(15塩基~20塩基を認識)とアンチセンス鎖(15塩基~20塩基を認識)をそれぞれ作製します。
CRISPR/Cas9
2013年には原核生物の獲得免疫として働くCRISPR/Casシステムを利用した第3世代のゲノム編集ツールが開発されました。CRISPR/Casシステムはファージ感染や接合などを介して侵入する外来DNAを断片化して内在性のゲノム中に取り込みます。再び侵入してきた際に、1回目に取り込んだDNAの転写の結果できるRNAを用いて外来DNAを認識し、CASヌクレアーゼにより切断します。ZFNおよびTALENとは違い、標的とするDNAをRNAが認識します。つまり、標的配列と相補的配列を持つgRNA(guide RNA)とヌクレアーゼ活性を持つCas9タンパク質のmRNAを準備するだけでいいのです。ZFNやTALENではDNA結合ドメインと切断ドメインを融合タンパク質として作製する必要があり、複雑なベクター構築が必要でしたが、CRISPR/Casシステムでは標的配列に対応する塩基を変えるだけでより簡便にツールを構築できます。ただし、認識塩基(20塩基)の近傍にPAM(protospacer adjacent motif)と呼ばれる3塩基(NGG)が必要なため、標的配列決定の自由度を下げますが、ゲノム編集活性はZFNやTALENに比べて高くなっています。
手軽ながらもゲノム編集活性が高く、低コストで編集ツールが準備できることから、培養細胞、マウス、ラット、ブタからサルに至るまで、広く応用されています。

課題

このように汎用性の高い方法にもいくつか課題が残されています。以下にその課題とそれに対する対応策の一部を紹介します。

課題1. モザイク
ゲノム編集技術を用いた遺伝子改変動物作製の際、前核期胚にRNAをインジェクションしますが、受精卵の発生が進み、2細胞期胚や4細胞期胚でヌクレアーゼによる標的配列の切断が起こると、様々な変異を持った細胞が同居するモザイク個体が生まれてくることがあります。対策として、単純なノックアウト動物作製の場合は、F0で詳細な検査を実施するよりF0個体と野生型個体を交配させ、目的変異を持つF1を作製した上で、遺伝子変異を確認する方が確実であると考えられます。
KO動物作製の場合、モザイク個体からF1世代を作出する場合、複数の変異系統を樹立できる可能性がある点は、課題というよりも利点と考えることができます。
課題2. Off-target効果
CRISPR/Cas9システム利用時に特に注意すべき点ですが、gRNAが認識する塩基数が20塩基と短いため、標的配列と類似した配列を切断してしまうことがあります。これがOff-target効果と呼ばれるものです。その対策として、CRISPRdirectなどのガイドRNA設計ソフトウエアを用いてできるだけ類似配列の少ない標的配列を選択することや、野生型個体との交配によるOff-target siteの野生型化が現実的な解決策になると考えられます。さらには、Cas9 nickaseと2つのgRNAを用いることにより、認識配列を40塩基に増やすことで、Off-target効果を抑えるという方法も報告されています。

KACでの遺伝子改変動物作製例

最後に弊社の自社施設でCRISPR/Cas9システムを用いてノックアウト動物を作製した例を紹介します。

ApoE ノックアウトマウス作製
ApoE(Apolipoprotein E)ノックアウトマウスはES細胞を用いて既に作製され、その表現型も詳細に解析されているため、ノックアウトマウスが作製できたかどうかを検証しやすいという理由からApoE遺伝子を標的としました。
RNAインジェクション後の胚(C57BL/6JJcl由来)93個を偽妊娠マウスに移植した結果、39匹の産仔(F0)を得ました(42.0%)。これまでの報告により、ApoE遺伝子が破壊されると血中総コレステロール(TC)値が上がることが知られています。F0の6週齢におけるTC値を測定したところ、C57BL/6JJcl(コントロール:野生型)の値55 mg/dLの4倍(220 mg/dL)以上の値を示した個体が39匹中27匹(69%)存在しました(図3)。

F0全個体(39匹)についてDNA sequence検査を実施し、2種類以上の変異を検出できた個体が37匹(95%)、1種類の変異および野生型の配列が検出できた個体が1匹、野生型の配列しか検出できなかった個体が1匹でした。
2種類以上の変異が見つかった個体は37匹でしたが、TC値が高い表現型を示した個体は27匹でした。変異が入ったものの、TC値高値の表現型を示さなかった個体は3の倍数の単位でindel変異が入っている個体でした。3の倍数のindel変異が入っても、frame-shift変異につながらないため、TC値高値の表現型を示さなかったと考えられます。また、TC値にばらつきが出ていますが(図3)、F0個体のモザイシズムが原因の一つであると考えています。

Tyrosinaseノックアウトラット作製
Tyrosinase遺伝子は毛色決定を司る遺伝子で、両アリルともに欠損するとアルビノ個体になることが知られています。ノックアウトの状態が毛色に反映されることから、目視で遺伝子変異の有無を確認できるため、Tyrosinaseノックアウトラットの作製を試みました。♂DA(有色)ラットと♀Wistar(アルビノ)ラットの交配により前核期胚を採取し、gRNAおよびCas9 mRNAをインジェクションしました。RNAインジェクション後の胚58個を偽妊娠ラットに移植した結果、29匹の産仔(F0)を得ました(50.0%)。そのうち3匹に毛色におけるモザイク個体が確認されましたが、その他の26匹はすべてアルビノ個体でした(図4)。
Point mutation導入ラット作製
アルビノラットはTyrosinase遺伝子にpoint mutationを有することでアルビノ化することが知られています(図5, 6)。

そのpoint mutationを野生型に戻すことにより、有色個体を得ることを試みました。♂F344(アルビノ)ラットと♀F344(アルビノ)ラットの交配により前核期胚を採取し、gRNA、Cas9 protein、野生型のTyrosinase遺伝子の配列を持つssODN (single strand oligo DNA) をインジェクションしました。インジェクション後の胚56個を偽妊娠ラットに移植した結果、26匹の産仔(F0)を得ました(46%)。そのうち2匹(7.7%)が有色個体となり、point mutationの導入に成功しました(図6)。

新規ゲノム編集ツール Cpf1 (CRISPR/Cas12a)
新たなゲノム編集ツールとして、KACではCpf1に注目しています。
V型CRISPR-Casシステムに分類されるCRISPR-Cpf1は,Ⅱ型CRISPR-Casシステムに分類されるCRISPR-Cas9と同様に、guide RNAとnucleaseとの組み合わせからなりますが、guide RNAにtracrRNAを含みません。さらにCas9のPAM配列がNGGであることに対し、Cpf1のPAM配列はTTTNである点も留意したい相違点です。
また、Cas9のDNA切断末端が平滑末端になるのに対し,Cpf1は突出末端となる点においても異なります。
気になる切断効率について、C57BL/6J Jclマウス由来の受精卵に対し、Tyrosinase遺伝子を標的としてKOマウス作製を試みた結果を図8に示す。

Cas9同様に、Cpf1でも高いゲノム編集効率を示すことが分かりました。また、ラットにおいても同様に高いゲノム編集効率を示すデータを得ています。

今後Cpf1を用いて、point mutationの導入、大きなサイズの遺伝子導入、flox(コンディショナルノックアウト、CKO)動物の作製の検討を行っていく予定です。

最後に、ゲノム編集マウス・ラットを作製するにあたり、CRISPR/Cas9は特許関係で論争が続く一方、Cpf1は米国のBroad Instituteが基本特許を有するため、使用しやすい環境にあると考えられます。