BIOSCIENCE 薬効薬理試験
アレルギー関連試験
- アレルギー関連試験についてのノウハウ
- ※以下は全て、弊社実施した試験経験から得たノウハウであり、他施設でのデータと異なる場合があります。
皮膚掻痒試験(引っ掻き行動試験)
- 【動物種の選択】
- 一般的な「実験動物を用いた背部への後肢による引っ掻き行動試験」についてはマウスを用いられている場合が多くあります。ラットで実施を試みたところマウスで実施するより引っ掻き回数は圧倒的に低くなる傾向がみられました(下図参照)。
この結果から、動物種はラットよりもマウスを用いる方がよいと考えられます。
- 【マウス系統の選択】
- ①掻痒惹起物質を用いる場合
マウスの系統について、掻痒惹起物質(Compound 48/80、セロトニン、ヒスタミン、サブスタンスP等)を用いる場合はICRマウスを用いるのが有用です。ICRマウスは他系統のマウスに比較して引っ掻き回数が多くなりやすいです。さらに、ヒスタミン誘発引っ掻き行動はICRマウス以外では惹起しづらいです。
(参考文献:Skin Pharmacol Appl Skin Physiol. Mar-Apr 2001;14(2):87-96, N Inagaki, Scratching behavior in various strains of mice)
②感作を行う場合
オブアルブミン(以下、OVA)を用いた全身感作を行う場合やハプテンを用いた試験にはBALB/cマウスを用いるのが一般的です、惹起されるアレルギー症状には同じBALB/cマウスでもブリーダーによる差が認められる場合があるので注意が必要です。これはこの後に示しますNCマウスの慢性皮膚炎モデルについても同様です。
- 【マウスの性別】
- 多くの行動薬理試験では雌の性周期により行動に差が出ることを嫌い、雄マウスを使用する場合が多いです。一方で、皮膚掻痒試験や皮膚アレルギー試験の文献では雌マウスを用いているものが散見されます。これは、マウスを群飼育した場合、雄マウスでは闘争して背部や耳介部に傷がつくリスクが高いためであると考えられます。
単飼育の場合は雄を使用しても問題ありません。また経験上、雌と雄で引っ掻き行動回数や皮膚炎症の程度に大きな差はありません。
- 【引っ掻き行動観察用ケージ】
- 引っ掻き行動を観察するためにマウスを入れるケージ(観察用ケージ)の選択にも注意が必要です。
マウスには、ジャンプして逃げ出そうとする個体が一定割合で存在するため、飼育ケージのような低いケージでは脱出するかフチに登ってしまいます。これを防ぐために金網等で蓋をするとその網にぶら下がってしまい、引っ掻き行動を起こしにくくなります。
弊社では、
①マウスが飛び出さない(フチに上がれない)高さ。
②マウスが暴れても動かない重さ。
③糞尿を洗浄しやすい形状。
以上の条件を満たす観察用ケージを特注で作製してもらい使用しています。
観察用ケージには最大4匹のマウスを入れることができ、ビデオカメラで真上から撮影し、ビデオ映像中の引っ掻き行動の回数を測定します。
- 【引っ掻き行動】
- 弊社ではアレルギーモデルの種類に応じた引っ掻き行動を評価しています。
- 皮膚アレルギー(掻痒)モデル
①背部への後肢による引っ掻き
⇒掻痒惹起物質を用いた試験
②耳介部への後肢による引っ掻き
ハプテン惹起、NCマウス試験
③耳介部への前肢による引っ掻き
NCマウス試験 - 鼻アレルギー試験
前肢による鼻掻き行動 - 慢性結膜炎試験
後肢による眼部への引っ掻き行動
以上の引っ掻き行動について、後肢による引っ掻き行動は「引っ掻きのために後肢を上げ、引っ掻き行動を行って再び後肢を下す」までを1回とカウントしています(ストロークではない)。前肢による引っ掻き行動は、「前肢で引っ掻いた1ストローク」を1回とカウントしています。
- 【惹起物質による掻痒試験】
- 薬効を評価したい被験物質作用機序により掻痒惹起物質の種類を選択しています。
アレルギーによる掻痒:Compound 48/80、ヒスタミン、ハプテン
中枢性の掻痒:サブスタンスP
掻痒惹起物質はマウスの吻側背部(右図の×印)に皮内投与します。
- 注射針は30Gを使用し、ガラスシリンジで20 µL/siteの容量で、皮内投与します。
- 被験物質を脳室内投与する等の事情により吸入麻酔をかけ終わった直後に掻痒惹起物質を投与しての評価も可能です(同条件で吸入麻酔をかけ終わった直後のcontrol群が必須となります)。麻酔明けによる引っ掻き行動様の行動が気になる場合は、入麻酔をかけ終わり5分後の惹起物質投与でも構いません。
- 軟膏やクリーム剤を被験物質に使用する場合は、control群に同様の媒体対照を塗布しておけば比較評価は可能である。基本的に、塗布投与を行うとそれだけで引っ掻き(様行動)が起こりますが、惹起物質による引っ掻き行動はこれに加えて、明確に起こります。
NCマウスを用いた慢性皮膚炎試験
- 【NCマウスについて】
- NC マウス(NC / Nga マウス)は,SPF飼育下では無症状で、コンベンショナルな飼育室であればアトピー性皮膚炎様皮膚症状を自然発症するとされています。しかし、実際は通常レベルのコンベンショナル環境で飼育するだけでは発症しません。
NCマウスはダニに反応して自然発症のアトピー性皮膚炎様皮膚症状を起こすことが知られ、この場合「コンベンショナル環境=ダニが居る環境」の意味合いなのです。
そのため、動物ブリーダーからは「ダニ付きのNCマウス」が販売され、これを購入して通常飼育すれば自然発症します。
しかしこの「ダニ付きのNCマウス」には問題点があります。
①弊社のような多クライアントの動物を飼育する施設では、ダニの付いた動物の飼育は不可能です。
②この自然発症モデルの皮膚炎は劇症の場合が多く、背部被毛は大部分が脱毛して皮膚は痂皮形成・出血がみられ、耳介部は千切れてしまいます。そのため、強力な被験物質でないと作用を評価できない傾向があります。
- 【ダニ抗原誘発慢性皮膚炎モデル】
- 弊社ではダニ抗原をNCマウスの耳介部皮内に投与してアトピー性皮膚炎様病態を惹起しています。
皮膚炎症の程度は①耳介部の厚み、②耳介部皮膚症状スコアで評価します。
- 皮膚症状スコア
皮膚症状は以下の4項目を、無症状(0点),軽度(1点),中度(2点),重度(3点)でスコア化して評価します。
1)発赤・紅潮
1点:血管に沿った赤み
2点:血管から広がった赤み
3点:耳介部の面積の半分以上を占める赤み
2)出血・血塊,
1点:1、2カ所の点の出血・血塊
2点:3か所以上の点の出血・血塊あるいは面の出血・血塊
3点:耳介部の面積の半分以上を占める面の出血・血塊
3)痂皮・表皮剥離,
1点:1、2カ所の点の痂皮・表皮剥離
2点:3か所以上の点の痂皮・表皮剥離あるいは面の痂皮・表皮剥離
3点:耳介部の面積の半分以上を占める面の痂皮・表皮剥離
4)硬化(耳介部を指でゆっくりと折り曲げることで硬化の程度を判定します)
1点:折り曲げることはできるが芯がある
2点:折り曲げることが困難な硬化がある
3点:耳介部の面積の半分以上を占める硬化がある
- 【ダニ抗原誘発慢性皮膚炎モデルの掻痒評価】
- NCマウスの慢性皮膚炎モデルは、掻痒惹起物質誘発の引っ掻き行動と異なり、「ダニ抗原を皮内投与後すぐに引っ掻き行動が起ってしばらくすると治まる」ということはありません。
ダニ抗原投与後に観察していても後肢によるダニ抗原投与部位(耳介部)への引っ掻きをほとんど観察することはできませんでしたが、耳介部には引っ掻き行動の形跡である痂皮・表皮剥離及び出血・血塊が認められました。つまり、引っ掻き行動は起こっていて、これが皮膚症状の悪化の要因となっているのは明らかです。
NCマウスの耳介部への引っ掻き行動を評価するには、以下の2点が重要です。
①後肢だけでなく前肢による引っ掻き回数も測定して評価します。
②1時間測定では差が見えない場合が多いので、長時間(3時間以上)の測定が必要です。
右下のスケジュールのように、Day 14を最終ダニ抗原投与日とし、翌日のDay 15における、control群(ダニ抗原投与)と非発症群(生理食塩液投与)の前肢、後肢及びトータルの引っ掻き回数測定しました。
後肢だけでは1時間の引っ掻き回数では非発症群とcontrol群との間に有意な差はありませんが、前肢及び前+後肢合計においては1時間の引っ掻き回数で有意な差が認められました。
次に同じくDay 15に被験物質を投与してNCマウスの引っ掻き行動抑制作用を評価しました。
本検討において、ナルフラフィンが3時間の測定まで有意なひっかき行動抑制作用を示し続けました。一方で、ナルフラフィンは耳介厚及び皮膚症状スコアを抑制しませんでした。
ベタメタゾンは、耳介厚及び皮膚症状スコアを有意に抑制しましたが、引っ掻き行動を抑制しませんでした。FK-506(タクロリムス)では耳介厚、皮膚症状スコア及び引っ掻き行動のいずれも統計学的に有意に抑制しました。