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物体位置記憶試験:グルタミン酸神経系が関与する記憶の評価
閉ざされた環境におかれた動物が認識する情報には、環境の中に存在する物体自体に関する情報と、物体の空間位置関係に関する情報の2種類がありますが、それぞれを記憶するための情報処理系統は異なる神経的基盤を持つと言われています。Ying-Ke Jiang(2023)らは、物体記憶には海馬歯状回が、物体位置記憶には外側中隔核が関与していると報告しています。
我々は、N-methyl-D-aspartate (NMDA)受容体拮抗薬の MK-801を用いて、物体位置記憶試験と新奇物体認識試験を行い、NMDA受容体が物体記憶よりも位置記憶において重要な役割を果たしている可能性を示しました。また、このMK-801誘発物体位置記憶障害は、記憶の形成に関わる長期増強現象の増強薬であるrolipram (phosphodiesterase 4阻害剤)によって改善されましたが、acetylcholinesterase阻害剤のdonepezilでは改善されませんでした。Donepezilでは治療効果が十分でない認知機能障害に対する治療薬の研究において、本モデルは有用である可能性が考えられます。
参考文献:Ying-Ke Jiang et al. Front Behav Neurosci. 2023 Mar 31:17:1139737.
◆行動薬理試験
動物:Std:ddYマウス ♂ 6週齢
被験物質処置:MK-801 訓練施行開始30分前 皮下投与
Rolipram、Donepezil 訓練施行開始60分前 経口投与
評価方法:物体位置記憶試験、新奇物体認識試験
いずれの試験も訓練試行と試験試行の間の時間は60分
識別係数を算出して認知機能を評価(識別係数low = 認知機能low)
◆結果
【物体位置記憶試験】
①MK-801の作用
訓練施行において、MK-801は異なる場所(cornerとcenter)に置いた物体に対する探索時間に影響を与えなかった(左図)。試験試行においてMK-801は用量依存的かつ有意に識別係数を低下させた。(右図)。##; p<0.01, ###; p<0.001 vs saline (Dunnett’s test)
②MK-801誘発物体位置記憶障害に対するrolipramの作用
訓練施行において、被験物質の処置は異なる場所(cornerとcenter)に置いた物体に対する探索時間に影響を与えなかった(左図)。試験試行においてMK-801処置により有意な識別係数の低下が認められた。MK-801による物体位置記憶の障害はrolipramによって用量依存的かつ有意に改善された。(右図)。***; p<0.001 vs saline (Student’s t-test), #; p<0.05, ###; p<0.001 vs MK-801 (Dunnett’s test)
③MK-801誘発物体位置記憶障害に対するdonepezilの作用
訓練施行において、被験物質の処置は異なる場所(cornerとcenter)に置いた物体に対する探索時間に影響を与えなかった(左図)。試験試行においてMK-801処置により有意な識別係数の低下が認められた。一方、MK-801による物体位置記憶の障害はdonepezilによって改善しなかった。(右図)。*; p<0.05 vs saline (Student’s t-test), NS; Not Significant vs MK-801 (Dunnett’s test)
【新奇物体認識試験】
①MK-801の作用
訓練施行において、MK-801は2つの物体に対する探索時間に影響を与えなかった(左図)。試験試行においてMK-801は識別係数を減少させる傾向を示したが、用量依存性は認められず、また、溶媒処置群と比較して有意差も認められなかった(右図)。NS; Not Significant vs saline (Dunnett’s test)
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