KAC MAGAZINE

改めてコロナウイルス感染症を考える  いつまで続く?  

コラム

新感染症の命名から始まったパンデミック

SARS(重症急性呼吸器症候群)でもなく、MARS(中東呼吸器症候群)でもないコロナウイルスによる感染症を「新型のコロナウイルス感染症(COVID‑19)」と呼び始めて既に2年半(2019年12月~)が過ぎてしまいました。WHOでは病原体名を「SARS-CoV-2」と表記し、病名を「COVID-19」という言い方をしますが、日本ではもっぱら法律(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)(感染症法)上の呼称を使用して、病名を「新型コロナウイルス感染症」、病原体名を「新型コロナウイルス」と呼んでいます。

2022年6月23日現在、WHOが発表している世界の感染者数は 5億3千9百万人、死者数はなんと632万人に達しています(死亡率 1.11%)。一方、国内の感染者数は922万6千人、死者数は3万1千人(死亡率0.34%)に何とか踏み留まっています。これには国民の衛生観念に対する理解度の高さ、更には国・自治体・職場・家庭内においても多くの防御手法が遵守・実施されていたからと言われています。今後もそれらを記憶し実践することは、自らの安全も確保され、また大事な人たちを守ることにも繋がるものと思っています。

感染症発生当初に示された基本方針では、第一に病原体からの隔絶を図り、第二にワクチンの開発を待って「集団免疫」形成による防疫を行い、最終的に治療薬・治療法の開発に繋げることが、安心・安全な日常に一日でも早く戻ることができると理解していました。既に経験しているインフルエンザウイルス感染症の治療イメージを思い出してみてください。< 診断→抗インフルエンザ薬投与→ウイルスの増殖抑制→解熱・寛解 >
このイメージがゴールと考えています。

感染拡大防止策としてその実行が要請されていた事例 (居住地自治体から発出されていた要請事例:抜粋転載)

(1) 基本的な要請
① 三つの密の回避・マスクの着用・手洗いなどの手指衛生等の基本的な感染防止対策を徹底する。
② 若年層において感染拡大が見られる。重症化する事例もあるので慎重かつ責任のある行動をする。
③ 公共交通機関の利用においては、常にマスクを着用し、大声での会話を控える。
④ 路上・公園等における集団での飲食など、感染リスクが高い行動を控える。
⑤ 普段一緒にいない人との飲食は屋外でも控える。(バーべキューなど)
(2) 外出自粛要請
① 生活や健康の維持に必要な場合を除き、不要不急の外出を自粛する。
② 緊急事態措置区域、感染拡大地域 等との往来は、厳に控える。特に発熱等の症状がある場合は、外出や移動を控える。
③ 営業時間以降、飲食店等に出入りしない。
(3)飲食店等利用時の要請
① 利用は、少人数、2時間以内とし、深酒をせず、会話の際は、マスクを着用し、大声を避ける。(個人宅等でも同様)。
② 適切な換気が行われ、座席間の距離も十分で、飛沫の飛散防止(アクリル板等の設置)等の感染防止対策が徹底されたお店を選ぶ。
③ 高齢者の利用が多い、昼カラオケ等ではクラスターの発生もある。飲食を主としている店舗においては、カラオケ設備を利用しない。
(4)営業時間短縮の要請
①営業時間を5時から20時までの間とし、酒類については、提供時間を11時からとし、オーダーストップを19時とする。

思い出してみると、飲食店に対しては相当に厳しい要請がされていました。そして私達も日常生活を突然に奪われてしまったかのような生活にな
り、それが大きなストレスにもなりました。しかし今後の感染者数の推移によっては、再び同様な規制措置が取られるのではないかと心配になり
ます。

2021年12月から始まった第6波は、オミクロン株とその亜系による爆発的な感染拡大でした。2月には一日の新規感染者数が10万人/日を超えた
日もありました。その後の減衰は第5波(デルタ株)にみられたような急激なものではなく、非常に緩やかな曲線を描きながら減少しています。これがオミクロン株+亜系に現れている特徴かもしれません。この後はどうなるのでしょうか。

 

 

COVID‑19 集団発生の推移

2020年  : 第1波  3月~5月   第2波  7月~9月   第3波  11月~2021年3月

2021年  : 第4波  3月下~6月  第5波  7月~9月

2022年  : 第6波  1月~X月   第7波  X月~(感染者数が下げ切らないうちに次のXが来る?)

 

期待していた「集団免疫」は形成されたか?

人口の一定割合以上の人が免疫を持つと、感染者が出ても、他の人に感染させ難くなることで、感染症はやがて収束を迎えます。防疫対策としての施策の一つです。ウイルス感染症においては、「集団免疫」が形成されると免疫を持たない人も感染から守られるようになるとの考え方は、広く定着しています。ただし、自然感染あるいはワクチン接種による中和抗体が70~80%の人に産生される必要があるとされています。現在のワクチン接種においては、最大好条件下でも5~10%の人は感染防御能を得ることができないと報告されています。今回は第1・2回目の接種率が80%以上あったものの、第3回目接種率が60%程度に留まっていては、期待される集団免疫の形成は難しく、接種した方の85~95%の方のみが安全圏に滑り込むことができたのではないかと推測されます。接種率が低かった主な原因は、限定的ながらも発生する副反応が嫌だと思う方が多かったとされていますが、接種によって得られる高い発症予防効果および重症化予防効果も確認されていることから、今後の接種機会には、参加の努力をして欲しいものです。

感染時における発症程度を低く抑え、重症化を防ぎながらコロナ禍を乗り切ることは、次のステージである「治療薬が開発されるまでの時間稼ぎ」のために行っていると理解したい。

 

ウイルス感染症防御の主力はワクチン接種から

ウイルスからの隔絶法としては、① 手洗い・咳エチケット・マスク着用の励行 ② 三密の回避 ③ 消毒薬等の適正使用 が発生初期から啓発され、国外からも、拡散防止に対して一定の効果があったと評価をうけました。しかし感染防御の担い手は何といってもワクチンによる能動免疫の付与です。しかし一つだけ残念なことは、コロナ感染症対策に使用されているワクチンには、未だ純国産品の使用が無いことです。

 

ワクチン製造方法の違いが、免疫獲得を早めた

ワクチンはその製造工程から ① 病原性の弱い病原体を選び、何代も培養を続けて症状を出さない程度にまで病原性を弱めたものまたは無くした「生ワクチン」と、 ②病原体やその一部分またはそれが作りだす毒素成分を処理し、病原性や毒力を無くした「不活化ワクチン」が知られています。

いま私達が接種しているワクチンは、ウイルスの設計図さえあれば遺伝子組み換え技術によって6週間で作り直しが可能といわれる、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンと言われるワクチンです。これはウイルスの感染・発症に至るメカニズムから発想され、遺伝子組み換え技術によって作成されたパーツを組み合わせることによって製造されています。ただしここに至るまでの「調査・研究」、「量産のための設備・空間」を必要とするため、現状はいわゆるメガ・ファーマと言われるメーカーだけが製造・発売元になれました。私たちはこの技術によって、「短期間に大量のワクチン製造が可能」になり、「効率的に防御能を得る」ことができたわけです。

 

「実効産生回数」 ・・・  この言葉を覚えていますか?

現在、第4回目の接種スケジュールが動き始めましたが、ウイルス遺伝子の変異が早いため、概ね6~7ヶ月間隔の現在の接種プログラムは、これからも暫くの間は継続を余儀なくされるようです。しかしこの循環を断ち切るには、変異ウイルスの出現を嘆くよりも、流行そのものを抑制するという考え方があります。ワクチン接種然りですが、今も言われ続けている基本対策、(手洗いとうがい・睡眠と栄養、人混みに出掛けない、3密の回避と換気)を徹底遵守して、「実効産生回数」を限りなく小さくすることが流行の抑制策になるのです。やみくもにロックダウンを行うのではなく、国民的にも基本対策遵守のほうがより実効的と思います。日本人ならできると思いますが・・・・

 

最終ステージ  治療薬・治療法の開発は進んでいるか?

COVID-19は、感染後数日内に発症し、その後の数日間は体内でウイルスを増殖させています。このタイミングで抗ウイルス薬を投与します。感染後7日以降から宿主免疫と壮絶な闘いを始めるため、免疫調整薬・免疫抑制薬を使用して主病態(サイトカイン・ストームも)への対応に変わってゆきます。感染しても全ての方が発症するわけでもなく、全体の約20%が中等症に、約5%が重症化に進展すると言われています。インフルエンザウイルス感染症の治療法では、発症早期のウイルス増殖期中に抗ウイルス薬または中和抗体薬を使用しないと効果は望めないと言われています。そして徐々に悪化が進む発症7日前後以降の中等症・重症の病態では、免疫調整薬・免疫抑制薬に加えて抗凝固薬の投与が必要になってきます。因みに症度は、肺炎がなく酸素投与が必要のない状態を「軽傷」、肺炎があるか酸素飽和度94%未満または酸素投与が必要な状態を「中等症」、人工呼吸管理やECMO(体外式膜型人工肺)を必要とする状態を「重症」と呼んでいます。なお、COVID-19では、インフルエンザウイルス治療法と同等なイメージを持つ医薬品は未だ開発されていません。他のウイルス疾患等に使用されている医薬品の転用効果を検証していますが、なかなか良い結果も出てきません。もう少しの我慢でしょうか? 治療薬ができたときが、安心・安全な日常が戻ってきたと思える時かもしれません・・・・

アドバイザー 仁田 修治