KAC MAGAZINE

実験動物施設ってどんなところ? その1

コラム

今回のコラムでは、連載形式で実験動物施設についてご紹介したいと思います。

実験動物施設に係わる仕事をされている方には、研究者、動物飼育管理者、施設管理者など、その施設を直接利用する方々もいれば、建設や改修、運用に係わる予算を考えたり必要なものを手配するなど施設そのもは利用しないものの、維持や管理に重要な役割を担う方々もいます。また、建築や改修に携わる建設業の方々も実験動物施設に係わる仕事に従事していると言えるでしょう。

これら大勢の方が正しい知識で施設を建設、管理、運用する事で、科学的および社会的に適正な動物実験を行うことができるのです。

では、実験動物施設とはどのような施設なのでしょうか。

一口に実験動物施設と言っても実は一種類ではありません。世の中の建物がその用途に応じて様々な構造や機能を備えているように、実験動物施設も飼育する動物種や遺伝子組替えの有無、微生物学的統御、飼育規模、研究内容などに応じて施設への要求が変わってきます。そして、多くの場合1つの施設に求められる条件は単純ではなく、建物の構造や機能を複雑化させます。その為、実験動物施設に係わる人全員が、それら構造と機能の必要性を理解していなければ、誤った設計や改築、運用管理の原因になりかねません。

そこで第1回目は、基礎知識として「動物実験とは何か」、「動物実験に利用される事の多い動物」、「実験動物の微生物学的統御」の3つについてお話をしたいと思います。ここが分っていないと実験動物施設を理解する事はできません。

【動物実験とは何か】
動物実験とは、動物に何らかの実験処置を加えて、動物の反応を観察することです。
私達は、動物実験で得られたデータを基に、医薬品や医療技術の有効性、安全性などを判断しています。その為、外的要因により動物実験で得られるデータにバラツキが出ないよう、遺伝的、生理的、心理的に安定した品質の動物を用いて、それぞれの動物種に適した安定した環境の下、適正かつ安定した実験方法を用いて動物実験を行う必要があります。(再現性の確保)
これらを維持する為に、実験動物施設は重要な役割を担っています。

【動物実験に利用される事の多い動物】
実験に利用される動物には、動物実験用として繁殖・生産された動物から家畜、野生動物など様々な種類の動物がいます。
本コラムでご紹介する実験動物施設は、基本的な実験動物施設とさせていただきますので、ここで説明する動物も動物実験に利用されることが多い種類に限らせていただきます。

動物実験に利用される動物には、以下のような動物が利用されています。

・マウス
・ラット
・スナネズミ
・ハムスター
・スンクス
・モルモット
・ウサギ
・フェレット
・イヌ
・ネコ
・サル類(カニクイザル、アカゲザル、マーモセット)
・ブタ(ミニブタ・マイクロミニブタ)
・ニワトリ
・ゼブラフィッシュ
・アフリカツメガエル

これらの実験動物は、それぞれの習性に即した環境下で飼育される必要があります。その環境を提供し、維持・管理するのも実験動物施設の重要な機能の一つとなります。

【実験動物の微生物学的統御】
実験動物は、微生物学的統御の状態により以下の4つに分類されます。

このため、実験動物施設には、実験動物の微生物学的統御を維持する為に必要な構造と機能が要求されます。
例えば、無菌動物とノトバイオートは、微生物学的に隔離され厳格に管理された環境下で飼育される必要があり、専用の飼育設備(ビニールアイソレーター等)で飼育されます。SPF動物では、無菌動物やノトバイオートほど厳格な飼育環境を必要とはしないものの、微生物や寄生虫の侵入を防ぐ構造や機能が施設に求められます。
また、コンベンショナル動物では、SPF動物のような微生物学的統御に必要な施設要件は無いものの、施設の衛生状態を保つために必要な構造、設備を求められます。

以上の事から分るように、実験動物施設とは再現性のある実験を可能とし、且つ、動物福祉に配慮された環境を実現するべく作られた専用の施設なのです。

 

次回は、「実験動物施設ってどんなところ? その2 ~飼育エリアの構造 ① オープン方式~」についてお話させていただきます。

技術推進部 技術サービスグループ
アシスタントマネージャー 紺屋 好美