KAC MAGAZINE

国産新型コロナワクチン

コラム

 新型コロナウイルスのまん延防止の切り札として、新型コロナワクチン(以下ワクチン)接種が開始されて半年、ワクチンの供給不足や副反応など課題はいくつもありますが、高齢者の感染が減るなど効果も現われています。現在、使用されているワクチンはすべて海外製です。
 国産ワクチンはどうなっているのとの声が聞こえてきます。
 国産ワクチンは、いくつかの企業が開発を進めているものの第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験が一番早い段階で、現時点ではヒトへの実用化の目途はたっていません。

 通常の医薬品開発では、これから大規模第Ⅲ相試験を実施していくことになります。しかし、患者数が少なく、ワクチン接種が進む日本での試験の実施は難しくなっています。また、コロナが拡大している地域での実施を検討するとしても、被験者の確保、人種差の問題や、プラセボ投与に伴う倫理上の問題など試験終了までには相当の期間を要することになります。
 そうした中、現在使用中の海外製ワクチンは緊急時の「特例承認」で許可されています。国産ワクチンについても緊急時の対応として、一定の有効性と安全性を確認したうえで、発売後に評価を行う「条件付き早期承認」や、第Ⅲ相試験の代替として有効性の指標となる中和抗体の産生量を海外製ワクチンと比較する数千人規模の「非劣性試験」の実施が検討され、「非劣性試験」が選択されました。

 医薬品のグローバル化が進展しているなかで、そこまでしなくても海外製のワクチンだけで充分との意見もあります。しかし、国産ワクチンの実用化は、ワクチンの効果持続期間が限られ、繰り返し接種が必要になるなかで自国優先主義によるワクチンの供給停止や日本独自の変異株への対応、この経験を生かして次のパンデミックに備えるなど、国民の健康を守るうえでの安全保障の観点から必要であると考えます。

 今後も国産ワクチンの行方は政府の判断にかかっています。世界の新薬開発の三大拠点の一つの日本がワクチン開発で後れを取ったことは否めません。それを挽回するためにも、海外製ワクチンより安全性が高く、使い勝手が良い国産ワクチンの実用化に向け、政府が指導性を発揮して、早期の申請・承認への具体的な道筋を示していくことに期待しています。
 現在、第一三共株式会社から「非劣性試験」を計画していることが発表されています。他社も含めて、今後の国産ワクチンの動向に注目してもらいたいと思います。

コンサルタント 橋本 正晴