KAC MAGAZINE

アドバイザーコラム「医薬品のリスクとベネフィット」

コラム

 思い起こせば、かれこれ40年ほど前、臨床獣医師を目指して入学した大学で出会った病理学が私に医薬品開発の一端を担う機会を与えてくれました。

医薬品開発においては、副作用(望まれない作用、ある意味では毒性)と化合物の主作用(期待される作用、薬効)とのバランスを如何にコントロールするかが重要となります。副作用は医薬品のリスク、主作用は医薬品のベネフィットであり、このベネフィットがリスクを上回り、総合的に判断してヒトに対する有益性(勿論、収益性も)が得られれば、化合物は医薬品として世に出ることが出来ます。俗物的な例えで言うと、「髪の毛が抜けるが、がんを治せる化合物は薬になるが、髪の毛が生えるが、歯が抜けてしまう化合物は薬にならない」のです。また、一般的には、リスクが生じる用量(曝露量のほうがより正確)とベネフィットが得られる用量の差が広ければ広いほど、安全性が高い化合物と、差が狭ければ安全性が低い化合物と判断されます。

昨今、世界中で早急な承認・接種が進んでいる新型コロナウイルスに対するワクチンも医薬品と同じ考えが当てはまります。新型コロナウイルス感染症に関して、抜本的な治療薬や治療法がない今の緊急時(リスクが高い)においては、100%の効果と安全性が保証されていなくても、一定水準以上の効果(ベネフィット)が期待されるワクチンであれば、使用が承認されます。これは「リスクとベネフィット」のバランスから判断されるものです。たとえ、ある程度の確率で副作用が発生するとしても、それが重篤でなければ不安に思わずに、その副作用の発生(リスク)とワクチンの効果(ベネフィット)を天秤に掛け、判断すればよいと考えます。また、最終的に個人がワクチン接種の是非を決める場合には、自身の条件(年齢、既往症、家族環境等)と「リスクとベネフィット」を見極めて、判断すればよいのではないかと考えます。

バイオサイエンス事業部受託試験部長兼第二薬理グループリーダー 糀谷 高敏