KAC MAGAZINE

実験動物施設ってどんなところ? その2 ~飼育エリアの構造① オープン方式~

コラム

前回のコラムでは、実験動物施設に求められる要件を理解する上で知っておきたい基礎知識、「動物実験とは何か」「動物実験に利用される事の多い動物」「実験動物の微生物学的統御」についてお話をいたしました。今回は、飼育エリアの構造についての概略と、オープン方式についてお話ししたいと思います。

【飼育エリアの基本的構造】
下記の図は、実験動物施設の一部を示した簡略図です。
飼育エリアは一般的に、飼育室、処置室(または実験室)、洗浄室、倉庫、それらを繋ぐパスルーム、更衣室、廊下などから構成されます。

実験動物施設例 間略図
(図:実験動物施設例)

飼育室は動物を飼育する、簡単な実験処置をする部屋ですが、他の部屋の目的としては、

処置室:

実験処置によっては飼育室内では空間が不足する、実験機器を飼育室に持ち込めないなどの理由があれば、処置室で実施することになります。また、他動物にストレスを与えないように別室で処置を実施する動物福祉の考え方もあります。

倉庫:

飼育エリア内にある程度の器材を保管する場所を確保しておかないと、動物飼育も実験処置も不効率となります。ゆとりがある方が良いですが、飼育エリア内の倉庫が大きすぎると初期コストも管理コストも増大します。飼料や化合物、飼育機器、実験機器など必要な箇所に必要なだけ保管場所を設けます。

パスルーム、廊下、更衣室、洗浄室:

飼育室と飼育エリア外との緩衝区域です。飼育室への汚染物の持ち込みを防ぐため、これらの部屋で人は更衣、器材は洗浄消毒滅菌されます。微生物学的側面のみでなく、動物の逸走防止機能、温湿度の維持、施錠管理によるセキュリティーの役割を持つこともあります。

と、いった具合です。
これらは、実験動物に必要な環境条件を満たすため、また、飼育や実験が効率よく安全に行えるように動線を考慮しつつ配置されます。飼育する動物種や実験目的などに応じて多種多様な機能が備わることが考えられます。実験動物施設は飼育エリア外にも、実験室や居室、外部倉庫、空調機室などが設けられ、飼育エリアの各設備と連携しながら実験動物の飼育や動物実験が実施されます。

【飼育エリアの環境基準】
飼育室には、動物種に応じた飼育環境基準が定められており、実験動物施設にはこの環境基準を満たし、維持、管理する為の設備が必要となります。

飼育環境基準の一例
(飼育環境基準の一例)

【微生物学的統御に応じた飼育方式】
動物飼育エリアには、飼育動物の微生物学的統御レベルに応じた3つの飼育方式があります。

1.アイソレーター方式(封鎖方式)
2.バリア方式(隔離方式、SPF方式とも)
3.オープン方式(コンベンショナル方式とも)

動物の微生物学的統御の状態でこの3つの飼育方式のどれかが選択されます。これらの飼育方式は、一つの動物実験施設で2つ以上、同時に採用される事も多く、洗浄室など一部設備は複数の飼育方式で兼用されることも見られます。

「実験動物施設ってどんなところ? その1」でお話ししたとおり、アイソレーター方式は、無菌動物やノトバイオート(保有している微生物が明確な動物)などを飼育する際に取られる飼育方式です。管理方法としては非常に厳格です。
バリア方式とオープン方式は、実験動物施設ごとの管理方針によって設備が様々です。考え方としては、SPF動物を飼育するバリア方式と、コンベンショナル動物を飼育するオープン方式とに大別できます。

【オープン方式】
オープン方式の施設(エリア)を指す名称は「オープン施設(エリア)」や「コンベンショナル施設(エリア)」など施設によって呼び名が変わりますが、どちらも同じ物になります。

オープン方式では、飼育エリアと飼育エリアの外環境とを厳密に隔離しないのが特徴です。ここでいう厳密な隔離とは微生物学的な隔離と考えて下さい。
飼育エリアの気圧制御は積極的に実施されなかったり、エリア外の空気が除菌処理される事無くエリア内に供給されることもあります。飼育エリアの動線は比較的自由に設定され、飼育室間や処置室との往来の順序を制限されることは少ないです。このことから施設としての感染防御能は低く、無菌動物やノトバイオートはもちろん、SPF動物などの微生物学的なコントロールを必要とする動物の飼育には不向きです。

感染防御能が低い施設ではありますが、運用面での感染対策や施設管理をいい加減にしている施設を見ることはありません。持ち込む器材はきちんと洗浄・消毒し、施設内の清掃や消毒も適宜行われています。また、人が入域する際には、手洗い消毒を行い、白衣やマスク、手袋、帽子などを着用することで、できる限り病原菌を持ち込まない対策をとります。オープン方式と呼びつつも施設や動物種によっては動物にとって重大な感染症や人獣共通感染症のSPF項目が設定され、微生物モニタリング検査が実施されることもあります。動物福祉や動物逸走対策も満足するように運用されます。

以上のようにオープン方式は、管理がシンプルでありながら、押さえるところは押さえて効率的な運用が可能な実験動物施設といえます。、利用者にとっての利便性が高く施設自体のイニシャルコストやランニングコストが比較的低く押えられるというのも良い点です。

何となくオープン方式のイメージはできたでしょうか。

次回は、「実験動物施設ってどんなところ? その2 ~飼育エリアの構造② バリア方式~」についてお話ししたいと思います。

 

技術ソリューション部 技術サービスグループ
紺屋 好美