EXHIBITION

第68回日本実験動物学会総会 KACアフタヌーンセミナーアンケートへの御礼と講演内容に関する質問へのご回答

実験動物総合相談・研修

2021年5月18日~20日に実施いたしました「第68回日本実験動物学会総会 KACアフタヌーンセミナー視聴者アンケート」にご協力をいただき、誠にありがとうございます。

お陰様で貴重なご意見を多数頂戴することができました。今後はこれらのご意見を参考に、お客様のご期待に添えるサービス体制の確立に努めさせていただきます。

また、本アンケートにお寄せいただいた講演に関する質問につきましては、ご講演いただいた先生方より回答を頂いておりますので、ご一読いただければと存じます。(時間の関係で講演内にお答えできなかった回答も掲載しております。)

 


北海道大学 大学院獣医学研究院 市居 修先生 「カスパーゼ3欠損マウスにみられる免疫介在性の腎疾患」 への質問と回答

Q1.胎生致死を引き起こす因子は、腎臓以外とのことですが、胚の体外発生についてはいかがでしょうか。

A.ご質問頂き、誠にありがとうございます。胚の体外発生に関するデータは持ち合わせておりません。JAXから情報が提供されておりますが、神経系の細胞死異常が胎性致死の表現型に影響していると考えられます

(https://www.jax.org/strain/006233)(https://www.nature.com/articles/384368a0.pdf)。

一方で、その胎生致死を逃れるメカニズムは不明であり、先生のおっしゃる体外発生実験系による致死個体・非致死個体の比較検証等は有用であると考えられます。

 

Q2.大変興味深いマウスです。12ヶ月以上加齢したマウスでは腎臓の病態がさらに悪化したり、あるいは他の臓器にも病態や異常を発症するのでしょうか?

A.ご興味をお持ちいただき、誠にありがとうございます。12~15ヶ月齢程度の個体を観察しましたが、糸球体の病変が強くなる傾向にあります。一方で、シビアに糸球体硬化を示すものではなく、徐々に病態が進行する印象を受けます。勿論、腎臓には加齢性変化も加わっております。その他の臓器に関しては、脾臓が徐々に大きくなる程度で、肉眼上の著変は無いと考えております。

 

Q3.なぜICがメサンギウムにだけ蓄積して、血管壁には沈着しないのでしょうか?

A.非常に重要なご指摘をありがとうございます。糸球体の病理発生には、Casp3KOによる免疫系の異常と臓器構成細胞の異常の双方が重要であると考えております。

Casp3KOマウスの血中IgA濃度に変化はありませんでしたので、本病態形成には糸球体構成細胞、特にメサンギウム細胞のCasp3KOが関与すると考えております。メサンギウム細胞は、糸球体毛細血管内腔に細胞質突起を伸ばしております。推測の域を出ませんが、そこからの免疫情報の取得と処理(例えば、抗原、抗体、補体、免疫複合体の補足と処理)に異常がある可能性を考えており、一般的な免疫介在性腎炎(免疫複合体の“沈着”)とは異なることも想定しております。また、この病理発生論では、CASP3の役割が臓器・細胞で異なる、またそのファミリーとの相互作用も異なる、という前提が必要になります。

 

日本獣医生命科学大学 獣医学部 栃木 裕貴先生 「WOREE症候群モデルラットの中枢神経系における病理発生メカニズムの解明」 への質問と回答

Q1.T3を投与したラットは症状が緩和されたのですか?

A.T3の投与の病態への影響につきましては、現在鋭意調査中です。今回の紹介した実験は、ニューロンの成熟や髄鞘の形成が盛んな10-15日齢にT3を投与することにより、中枢神経系の病理学的な異常が救済出来るかという観点で実施しました。一方、LDEラットに特有のてんかん発作などはおおよそ15日齢以降から顕著になってくるため、今回お示しした実験系では病状の変化を精査することが出来ません。しかしながら、T3の投与によりニューロンの成熟不良や髄鞘形成不全が部分的に救済出来たことから、神経症状についても改善・緩和出来る可能性があるだろうと期待しております。

 

Q2.WWOX遺伝子の生理的機能は何であって、その機能欠損がこのような神経病態を引き起こす分子機序は何でしょうか?

A.残念ながら、WWOXの欠損が中枢神経系の発生異常をもたらす詳細な分子機構は明らかになっておりません。WWOXは、細胞増殖やアポトーシス、発生や代謝など多面的な生理機能を有すると言われていますが、現在までに決定的な役割は同定されていません。一方、これらの生理機能はWntシグナル経路やJak-STATシグナル経路など、いくつかの主要な細胞内情報伝達経路を介して発現されることが知られています。これらの情報伝達経路はニューロンの分化や成熟にも深く関わっていることから、WWOXの欠損に起因した細胞異常は特定の情報伝達経路が障害された結果、生じているのではないかと推測しております。ニューロンの分化・成熟に関連する情報伝達系とWWOXの関連を明らかにすることがWOREE症候群の発症メカニズムを解明する一歩になると考えております。

 

Q3.WWOX遺伝子は、ニューロンの発生時のみに機能するのでしょうか?それとも成熟後のニューロンでも何らかの機能があるのでしょうか?

A.今回の発表では示しておりませんが、WWOXタンパク質は成熟ラットの中枢神経系においてもニューロンおよびオリゴデンドロサイト、アストロサイトに発現していることを確認しております。しかしながら、成熟個体のこれらの細胞でWWOXが何らかの機能を果たしているかという点については、残念ながら解明されておりません。LDEラットをはじめ、他のWwoxノックアウトマウスでも成熟に至るまでに動物が死亡してしまうことが、この疑問へのアプローチをより難しくしていると考えられます。一方で、WWOXは腫瘍抑制因子として同定され、その細胞機能について調べられてきた歴史があり、細胞増殖やアポトーシス、各種代謝への関連が示唆されています。我々が調査しているニューロンの分化・成熟に関わるWWOXの機能と、これら過去の報告との間に接点を見出すことが出来れば、成熟個体のニューロンにおけるWWOXの機能の解明に近づけるのではないかと考えております。

 

今回、質問への回答にご協力いただきました北海道大学 市居 修先生ならびに日本獣医生命科学大学 栃木 裕貴先生には厚く御礼申し上げます。